「デザイン」と聞くと普通は「かっこいい」「クール」など、
目に見える表面的なデザインを想像するかと思います。
佐宗氏の伝えている「デザイン思考」とはそうではなく、
非デザイナーであるビジネスマンが多いに学ぶべき思考です。
本書にもありますが、
海外のビジネスキャリアでデザイン思考を学ぶことはもはや当たり前とあります。
MBAでは論理的思考をベースにした「ビジネスをより効率的にするやり方」を教えるのに対し、
デザインは今までの延長線上にない
「まったく新しい事業、商品やサービス、プロセス等を創るやり方」を教えています。
世界のトップスクールは「デザイン」を取り込む潮流の中にあります。
と分かりやすく解説されていますが、
私の感覚ですと、ビジネスマンが日々の仕事の中で新たな価値を創るために
欠かせない要素のひとつと感じました。
先日の日経新聞でユニクロの柳井会長が「ライバルはAmazon」とおっしゃっていました。
通常であればライバルは同じアパレル業界の
インデックス社(ZARA)、H&M、GAPというのが常識ではないでしょうか。
しかしそれは私たちが危機感をもって大局を見ていないだけかもしれません。
例えるなら現在の自動車業界もトヨタやVWが
ビジョナリー・カンパニーであることに違いはありませんが、
GoogleやAppleという、まったくの別業態が参画しており、
業界を覆す脅威となる可能性も多いに秘めていることに似ていると察します。
それはもはや企業は既存の業界だけを見ているだけでは
真のユーザーニーズを掴むことができず、
永続的な未来は見いだせない、ということかもしれません。
Googleのエリック・シュミットが
「ビックデータの時代に生きている。ビックデータを理解するには統計学が必要になる。
データは21世紀の剣でありそれを使いこなせる者がサムライだ」
と述べているように、限りなくユーザーの行動や嗜好を掴みつつ、常に最前線で勝負をしていくことが、
これからのビジネスにおいては必要な要素のひとつであると感じます。
大きな変革(イノベーション)なく、感覚的な目標を定めていては、
真のユーザー目線にはつながらないということです。
本書はデザイン思考を成り立たせる考え方の手法や練習も詳しく紹介されております。
「すべての情報を厳密に処理しようとしない」
「不明確な状態を恐れない」
「左脳右脳ハイブリッド思考の実践」
新たな価値を見いだすことは並大抵のことではありませんが、練習することで付く力は、
どの分野においても大切なお客様視点のモノづくりに間違いなくつながるであろうと、
本書を読んでいて大変参考になりました。
中でもオススメしたのが、「日本人とデザイン思考」というコラムです。
ちょっと長くなりますが、大変参考になりますので引用させていただきます。
「日本人の性格が、デザイン思考について持つ利点と欠点について触れたい。
利点としては日本人が日常体験を重視する人々だということである。
しかし、その発想が、発句にもたとえられる息の長い発想ではなく、
複雑に情報を組み立てていかなければならない発想の場合には、ある種の根気が必要になる。
せっかちで飽きっぽいくせのある日本人はある意味不利なのである」
「・・・少なくとも今日の日本の実情から見ると、現在の仕事のやり方の弱点は、
情報処理を計画的にやらないという点かと思う。
自分の頭のなかに、体験的に積まれている狭い情報の範囲内で、
勘を働かせてその情報を統合的に処理する。その能力においては、
日本人は世界でもまれな才能の持ち主だろう。
しかし、その範囲を越えた複雑な情報処理に直面すると、面倒くさくてやろうとしない。
その正道を踏まず、なすべき情報処理に金を出し渋って、物事をやれると思っている。」
「日本人は、いざという土壇場のところでは、理論は取らずに「実感信仰」を取るくせに、
表面的にはいかにも理論を信じているように自分も思い込むし、
時にはそのようなジェスチャーもするのだ。
最後は日常体験ないし、生活の知恵のようなものを信頼しているのに、
頭のてっぺんでは欧米の理論を信じている。その双方に関連がない」
「日本人は足下の体験から何かを「総合する」個人能力が、アメリカ人よりも優れていると思う。
ただし、日本人は体験を総合化する、という直感が優れているために、
かえってその武器に最初から最後までぶらさがろうとする。
・・・自分はいろいろな現実のデータがあるから直感的に総合できるのだ、といううぬぼれがある」
「日本人は一時的な直観体験から一挙に総合化して、
ある問題解決の道を見いだすヒントをつかもうと焦るのである。
そのような方法ではついに不可能な複雑な問題にぶつかると、諦めてしまう。
そして、どこかに頼るべき手本はないか、モデルはないか、
という模倣の姿勢に一気に転じるのである。
息の短い直観的総合力と、それに伴う息の短い創造力。
それでものごとを処理できないと、たちまちにして模倣に転じる」
これは1967年に文化人類学者の川喜田二郎氏の書かれた
「発想法ー創造性開発のために」からの引用で、
川喜田氏の考案した「KJ法」を「デザイン思考」に置き換えただけの文章だそうです。
著者も驚いておりましたが、私もこのおふたりの文を拝読し、正直驚きました。
KJ法を取り入れるコンサル会社は今でも多くありますし、
なにしろKJ法そのものが「集まった膨大な情報をいかにまとめていくか」が
発端の考え方であるということです。
たしかに私も感覚値を基準にデータをサブ要素に、お客様にご説明していることがありました。
経験と勘を頼りに、一部の統計を加えて数字に意味をもたせてしまうということでしょうか。
その時は「ひらめいた!」と良かったのかもしれませんが、
確かに長期的な戦略につながったかといえばそうではありません。
なんだか自分が恥ずかしくなりました。
50年も前から見透かされていたのですね・・・
学ぶことで身につくこと間違いなしです。
考え方のヒントを養って下さる目からウロコの本書です。
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タイトル:21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由
著 者:佐宗邦威(さそう くにたけ)
発 行:2015年8月1日
発行所 :株式会社クロスメディア・パブリッシング
■関連・参考サイト
デザイン思考の実践者たちが語る、21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由 | Biz/Zine
http://bizzine.jp/article/detail/1014
株式会社ビオトープ(佐宗氏の代表の会社)
http://biotope.ne.jp/
発想法ー創造性開発のために(川喜田二郎 著)
http://www.chuko.co.jp/shinsho/1967/06/100136.html
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