2021年6月のさと、うま 安いニッポン「価格」が示す停滞@中藤玲

本書は2019年末の新聞掲載が発端で発売された書籍である。
ちょうど今月中旬ころから日本経済新聞で掲載されている「安いニッポン・ガラパゴスの転機」というシリーズ記事がその流れをくむ続編だろう。

安いニッポン。
政治・経済・国民性・文化・・・あらゆるものが交わり、今の世界(特に経済)があるのだが、ここまで特殊性の高い国だとは思っていなかったのが実感だ。

戦後の高度経済成長からバブル経済、バブル崩壊、リーマンショック、などを経験した我が国は、付加価値をつけることはできた。
しかし長いデフレによって日本人の感覚に備わった「安くて良い」という感覚。
それがここまで深い傷になっているとは思ってもみなかった。

著者のテーマ性、あらゆる方向から見た「安さ」の現実、歴史など、読みやすいし、読みごたえがある。
主要7か国で最下位、OECD37か国中21位の労働生産性。
スイス903万円、アメリカ629万円、ドイツ531万円、韓国286万円、日本は経団連の調査ベースで262万円という初任給格差。
その賃金の安さ上に引き抜かれるプロパー社員たち。
日本企業の文化が壁となり、優秀な社員を採用できない日本企業。
賃金について声を上げない日本人。
リンクトインが世界22か国3万人におこなったアンケート「人生で成功するために重要なもの」において、日本も含めて世界共通の1位は一生懸命働く」だったが、世界では次いで「変化を好んで許容すること」「人脈」に対し、日本の2位は「運」という、、、笑えない現実。
賃金・給与への満足度はイギリス・フランス・ドイツの4か国中最下位の日本人は「給与よりも仕事にやりがいを重要視する文化だ!」と言うも、余暇や生活全般への満足度も最下位で目も当てられない強烈な文化。
日本と言えばアニメ!・・・だが、日本の制作会社は中国企業に軒並み買収され、夢と現実がリンクしていない「空虚なやりがい」のまん延。

なかでも短くまとめられている各業界の方々のインタビューからも学ぶことがとても多かったので、本文より一部を抜粋して紹介させていただく。

「このままだと日本はこの先も変われない」
値上げできない理由は2つある。1つめは、日本は解雇規制が厳しくて従業員を解雇できないので、日本企業は「従業員の人件費を保護する」ことが第一目標になりがちだ・・・2つめは同質競争気質だ。他の誰もがやらないことに特化して「オンリーワン」で勝負する欧米企業に対して、日本 企業は品質や性能、領域のユニークさで競うことができず、安さで勝負をする傾向があるためだ・・・日本人は安定を好むと言われるが、私から見ると「安定」ではなくて「固定」だ。安定とは、上がったり下がったりしながら水準は同じ程度になるものだが、日本人は固定を前提にコスト設定するので、売り上げ確保を重要視し、売るために値下げに走っているのだ・・・

「物価2%を上げるのなら、賃金は3%上げる。そんな政策が必要だ」
・・・バブルが崩壊して数年たった1995年頃から、多くの企業が価格を動かさなくなった。CPI(消費者物価指数)でほとんど前年と変わらないことを意味する0%の品目が最多となった。同じ時期でもアメリカは2~3%の品目が多い・・・だが問題は景気が良くなった2000年代以降もその慣行が続いたことだ。値下げでもなく、「据え置き」という、まさに日本流のデフレが確立してしまった・・・ターゲティングをモノの価格から賃金にすり替えて強調するだけで印象が変わり、「賃金が上がるんだ」と思えば、値上げも受け入れられやすくなる・・・デフレから脱却してインフレになれば、ヒトサラ100円よりも高くなる日が来るかもしれない・・・値上げは簡単だが、品質を維持したまま価格を下げることのほうが難しい。常にその時に備えてコスト削減に取り組んでいる。

「日本型企業はあまりにも特殊すぎる」
・・・まず給与だ。リンクトインに掲載されているIT関連のエンジニア等求人情報を分析すると、日本の給与はシリコンバレーよりかなり安い・・・給与以外でも不利なのが働き方だ。外国人からすると、会社に業務内容や勤務先を委ねる日本式のメンバーシップ型雇用は理解できない。外国人は「自分のキャリアは自分で築く」のが主流・・・個人も会社任せにせず、自分の市場価値を高め続けることが重要だ。自分のキャリアは自分でしか作れない。

「アフターコロナ時代、低価格志向により強まるのではないか」
今進出しているアメリカや台湾では、日本より価格は高くしているが、それでも現地の強豪と比べると一番安くなるように設定している。日本よりも高い主な理由は人件費・・・人間みな安さを求めるが、特に日本の消費者は低価格志向が強い。それはずっとデフレが続いているため当然のことである。

「魚は日本人の口に入りづらくなるかもしれない」
先進国と新興国の両方で需要が伸びて水産物の国際相場が高騰し、日本がついていけない状況が長らく続いている。この買い負けの背景には、為替では埋められない差が生じて生きているだが、日本は環境意識が低いため完全養殖などの「付加価値」を認めてもらいにくい土壌があり。値上げにつながりにくい・・・消費者に認めてもらう商品を出し、しかるべき価格で販売できるのが理想的だ・・・

「日本の『安さ』は、いずれ日本に帰ってくる」
ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポールなどに比べて、日本はほとんど全てのモノやサービスの価格が安い。ラーメン、レストランの食事、洋服、車、家賃、ホテル、理髪店、ペットボトルの水、電車、バス、大学授業料・・・全てだ。「日本の購買力」が落ちた根本原因は、実質賃金が上がらないため、海外の成長している経済に比べて、日本の家計がどんどん貧しくなっていることにある・・・

「支出を減らすのではなく、収入を増やす努力にシフトすべき」
消費者物価をみると、モノよりもサービスの日本の安さが際立つ。サービス産業の価格は人件費と結びつくが、日本は賃金が上がっていないので、価格も安い・・・個人は家計や収入が減ることが当たり前だったので、家計を切り詰めがちだった。家計単独で見ると合理的だが、皆がそうなるとマクロ的には需要がシュリンクしてしまう・・・

「労働市場の見直しで安いニッポン脱却を」
日本の1人当たり国内総生産(GDP)は約30年間、ほとんど成長していない。購買力平価ベースでみると、一時は韓国より低くなった・・・賃金が安い理由は、他の国が成長する中で、日本だけが労働生産性が停滞しているためだ・・・年齢にかかわらず、いつでも働きやすくて自分の能力に見合った労働条件の会社に移れるような流動的な労働市場が望ましいのではないか。

「安いニッポンから脱するためには、国は課税の方法を考えることだ」
安いニッポンは質の良いモノを安く供給しているということであり、それは価値に適正な値付けができていないという意味だ。良いモノを安く売ると、「消費者余剰が大きい」ことになり、経済厚生が高いともいえるが、消費者余剰はGDPにカウントされない・・・日本が消費増税もさほど行わず、社会保障の効率化も行われていないのに財政危機が避けられているのは、2000年台以降、厚生年金改革や後期高齢者医療改革などで、被用者の社会保険料を引き上げてきたためだ・・・高齢化で膨張する社会保障給付の財源を、増税ではなく現役世代の社会保険料の引き上げでまかなう仕組みを整えてしまったのだ。政治的には最も取りやすいところから徴収したわけだが、日本経済の大きな重石となった・・・

2021年1月に全国の30~40代、年収200万~600万代を中心とした男女6748人に行われた独自のアンケート調査報告も掲載してある。
東京ディズニーランドの入場料金(8,200円~8,700円) → 約8割が高い、安い2%
アマゾンジャパンの「プライム会員の年会費(4,900円) → 42%が高い、安い22%
スターバックスのラテトールサイズ(420円) → 56%が高い、安い5%
・・・皆さんはどのように感じますか?

新型コロナウイルス、東京2020オリンピック、働き方改革、SDGs、地球温暖化・・・
私たちは目まぐるしく変わる環境の変化に日々向き合いながらも、未来を見つめ、未来に歩み、未来に夢を馳せる。
しかし、我が国の状況を他人事としてみるのではなく自分事として捉えたうえで行動する未来は、今よりも少しだけ勇気が湧き、パワーの源になるはずだ。

読み終えて、我が国の捉え方に新しいレイヤーが増えた。
そのきっかけとしての読書は間違いなし!
読み終わってからのYouTubeもなお良し!

■参考サイト
安いニッポン ガラパゴスの転機(1) 世界一律価格、日本に押し寄せる ネトフリ13%値上げ: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC25BQF0V20C21A5000000/

【安いニッポン①】年収1400万円は低所得?価格が示す停滞(Cheap Japan) – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Zxg8L7Nka1g

【安いニッポン②】土地も人材も海外に買われていく日本(Cheap Japan) – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=fNx9wDmY1vE

タイトル :安いニッポン「価格」が示す停滞
著  者:中藤 玲
発  行:2021年3月8日 第1版
発行所 :日経BP 日本経済新聞出版本部