2021年2月のさと、うま 人新世の「資本論」@斎藤幸平

「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」
2020年10月26日、菅首相の所信表明演説にて放たれた9つの項目のうちのひとつだ。
2015年12月に採択されたパリ協定から約5年後、首相に任命された菅首相の発した言葉は記憶に新しい。
パリ協定の大きな目標は、「世界の平均気温上昇を、産業革命前と比較して気温を2度より充分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」というもので、世界196カ国が締約している。
2020年以降の枠組み:パリ協定|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

実際は先月WTOから発表された内容によると、2020年の世界平均気温は約14.9度で、産業革命前(1850~1900年)の水準から1.2℃の上昇がされており、さらに今世紀末には3~5℃上昇する破壊的な状況になる見通しだと警告している。
2020年世界気温、16年と並び史上最高 国連「破滅的」上昇に警鐘  国際ニュース:AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3326358

昨年8月の東京都の平均気温は34.1℃だったが、仮に産業革命前から3.8℃(5℃-1.2℃)あがると、37.9℃となる。
体温が38℃になると、もはや身体の正常維持さえもままならないと言われており、それは新形コロナウイルスによる行動自粛と同じく、外出ができない世界になる可能性も否めないということか。

そのような気持ちで書籍を探すとやはりヒットしてくる書籍は、SDGs、気候変動といったキーワードのものが多いが、ダントツの評価数の書籍との出会いが訪れた。
それが今月オススメの本書、人新世の「資本論」である。

本書を先に要約すると、カール・マルクスの資本論の思想を紐解き、気候変動問題と結びつけて提言されている書籍になる。
結論としては、このような捉え方・考え方もあるものかととても衝撃を受けた。
Amazonのアルゴリズムが導いてくれた書籍だが、それにより一方的ではない多面的な学び方・ものの見方ができること、そして知識の幅が勝手に奥行きを増していくのを本気で感じる。

話がそれてしまった。内容について簡単にレビュー。
本書は気候変動への興味関心はもちろんのこと、タイトルにある【人新世】と【資本論】についての前知識があるとより味わえる。

【人新世(じんしんせい、ひとしんせい)】・・・地質時代(年代)区分のうち、最も新しい時代である「完新世(Holocene)」(1万1700万年前)から、人類による地球環境への影響が顕著になった近年だけを切り離そうと提案されている新区分名が「人新世(Anthropocene)」
参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構
https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4676

【資本論】・・・カール・マルクスの著作。ドイツ古典哲学の集大成とされるヘーゲルの弁証法を批判的に継承したうえで、それまでの経済学の批判的再構成を通じて、資本主義的生産様式、剰余価値の生成過程、資本の運動諸法則を明らかにした。
参考:Wikipedia

・・・私にはとても難しい。

私たちの経済活動=資本主義が地球を破壊してきた。
資本主義経済を進めていては気候変動を止めることはできない。
著者がマルクスの資本論を深く解釈し、読み解き検証していく。
例えば・・・マルクスはこう強調していた。資本主義は自らの矛盾を別のところへ転嫁し、不可視化する。だが、その転嫁によって、さらに矛盾が深まっていく泥沼化の惨状が必然的に起きるであろうと。資本による転嫁は最終的には破綻する。このことが、資本にとっては克服不可能な限界になると、マルクスは考えていたのである・・・

気候変動の実態も様々な事例や表を用いて映し出していく。
例えば・・・通常、「経済成長」によって「環境負荷」は増大する。そのように今まで連動して増大してきたものを、新しい技術によって切り離そうとするのがデカップリングだ。つまり経済が成長しても、環境負荷が大きくならない方法を探るのである・・・絶対的デカップリングの一例を挙げれば、二酸化炭素を排出しない電気自動車を普及させることだ・・・充分な絶対的デカップリングは不可能だというのである。なぜなら経済成長が順調であればあるほど、経済活動の規模が大きくなる。それに伴って資源消費量が増大するため、二酸化炭素の排出量の削減が困難になっていく・・・

日本は二酸化炭素排出量が世界で5番目に多い国だ。
日本を含めた排出上位5カ国(中国、アメリカ、インド、ロシア、日本)で、総排出量の約6割もの排出を行っている。
所得階層の富裕層10%が世界の二酸化炭素排出量の49%を排出している。
もちろん、日本人のほとんどがこの富裕層の階級に当てはまる。

結果どうするのか。
解き放つ気候変動問題への新しい方向、それは「脱成長コミュニズム」。
気候変動と資本論から導かれる示唆に飛んだ結末。
正直に驚いた。
と同時に、ときに俯瞰し、ときに一点集中する、一方向ではなく、このようにモノの見方や学び方を変えてみる事の大切さを改めて感じた。

最後に文中の著者の言葉を抜粋してご紹介。
~気候変動が将来の世代に与える影響の大きさを考えれば、私たち現役世代が無関心でいることは許されず、今こそ「大きな変化」をはっきりと求め、起こしていく必要がある~

他人事ではない。
本気で変わらなければいけない。
そのためにもしっかりと理解を深め、着実にただし素早く行動に移さねばならない。

「脱成長コミュニズム」?・・・是非手にとってお読みいただきたい。

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■参考サイト
『人新世の「資本論」』斎藤幸平さんインタビュー マルクスを新解釈、「脱成長コミュニズム」は世界を救うか|好書好日
https://book.asahi.com/article/13965360

地球温暖化の基礎知識  JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
https://www.jccca.org/global_warming/knowledge/kno01.html

日本の気候変動2020(概要) 文部科学省気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2020/pdf/cc2020_gaiyo.pdf

タイトル:人新世の「資本論」
著  者:斎藤幸平
発  行:2020年9月22日
発行所 :集英社