『ライフエクスペリエンス』 第2話
〈とりあえず靴を磨こう。本によると、まずはここからだな。
っていうか外雨じゃん。やる気なくすぅ・・・じゃない!
『恵みの雨だ!もしかすると雨だから道で滑る人がいたり、
車が来て水たまりの水が跳ねて人にかかって、
お笑いのネタにできそうなことが起こるかもしれない!』
こんな感じで考えればいいのかな?〉
完全に昨日読んだ『夢をかなえるゾウ』の内容だ。
すぐに実践するなんて意外に純粋じゃないか。
光男(ひかりお)がふと手帳を見る。
今日はお笑いのオーディションらしい。
傘をさして駅まで歩き出す。バッシャー!!
〈うそだろ、、俺かよ・・・。靴もさっき磨いたばっかなのに。〉
そんなことってあるだろうか。
自分でイメージした面白いこと(当事者になったらかわいそうなこと)が本当に起こる。
しかも当事者として。
くくくっ。僕が本屋で働いているだけだったら絶対に体験できないことだ。
こいつ芸人を目指しているだけあって、ある意味もってるかもな。
彼を見ながらそう思う。
そんなこんなでオーディション会場に着いたようだ。
*
オーディションが始まった。
「コント ガネーシャ」
「はいどうも!ガネーシャです。
最近寒いですが、こう寒い日が続くとね、人恋しくなりますね。
私こう見えても彼女がいないんです。そうすると彼女作ろうということになりますね。
いざ作ろうとすると、これがまた面倒なことばかり。デートに行くとなるとどこに行くのか。
まずここで迷うわけです。では仮にドライブ行くことになったとしましょ。
でも、ここでもまた迷う。思い切って外車を借りるか、はたまた日本車でいくか。
やっぱり女性が喜ぶのは外車だし、でも最初から見栄張るとあとあと辛くなるから
やっぱり最初は日本車にしようか、外車にしようか、日本車にしようか。
ガイシャにしようか、ニホンシャにしようか。
なんつって迷っているうちにこんがらがってきて、
じゃあもういっそのこと『ガネー車(シャ)』でいいんじゃないかと・・・」
真冬の海原を風が吹き抜けるかのようなそんな空気。
彼のナナメ上から見ている僕もどこか辛くなってくる。
今日はよくない日だったようだ。
っていうか、今回のネタ、昨日読んだ本のパクリじゃねーか!!
確かに本にもモノマネをすることは大事って書いてあったけど、
これは違うだろ!?そんなんだから・・・まぁいいや。
でも彼はそんなに落ち込んでいる様子はなかった。
〈俺の人生はこれでいい。いつかは成功したい。
けど、自分の好きなことを思いっきりやれることが幸せなんだ!〉
彼の心に同調しているとわかる。本を読む前と読んだ後とでは、
明るさというか、前向きさというか、心持ちが全然違う。
人はこうまで変わるものだろうか。
なぜ僕がこんな体験をしているのかまだよくわからないが、
こんな体験ができてよかったと心から思う。
** 〜サムスン式仕事の流儀〜 **
ふと目が覚めるとベットの上だった。
なんだ昨日の体験は、夢だったのか。
ってそんなこと考えてる場合じゃない!
遅刻だ!あと5分で出なきゃ仕事に間に合わない!!
歯を磨き、水で寝癖を直してすぐに家を出る。
ギリギリセーフ。出勤時間の1分前に店に着く。
「おやおや。今日もギリギリの出社かい?」
ダイジンだ。こんな嫌味をいうタイ人いるだろうか。
違うか。日本人か。にしても黒いな。
「うるせぇよ。そんなお前も実はギリギリに着いたんだろ?
顔に日焼け止めの白いのが残ってるぜ」
すでにここまで黒いのに諦めずに日焼け止めとは大した精神だ。
というか男なのに。まー、それも個性なのか。
そんなこんなで開店した。
しばらくすると、明らかに人相の悪い人が店に入ってきた。
間違いない。確実に犯罪を犯したことのある人相だ。
以前、指名手配犯のチラシを警察が配りに来ていたことを思い出し、
店の引き出しにしまってあったそれを確認する。チラシの中にこの男の顔はない。
そんな人相の悪い彼が手に買った本は、
『サムスン式 仕事の流儀 〜5年で一流社員になる〜』だった。
確か、アメリカのオクラホマ州でMBAを取得し、
その後、サムスンに就職、素晴らしい業績を作ったムン・ヒョンジン氏が書いている、
日本でも以前話題になった本だ。こんな本を読むとは。。意外に普通の人なのだろうか。
もうストレートに言ってしまおう。どこからどう見ても。
正面から、右から、左から、後ろから、どの角度から見てもヤクザだ。
仕事が終わり、家路につく。今日も何気なく過ぎ去ってしまった。
風呂から上がり、火照った体を扇風機で冷やす。
外の道路をたまに過ぎ去る車の音がどこか心地良い。
6月の夜風は気持ちが良い。いつの間にかウトウトしてきた・・・・・
*
またかいっ!!
昨日に引き続き、またドローンから映像を眺めているような状況だ。
今日は、あのヤクザか・・・。
開いた手帳に名前が書かれていた。仲田 京左衛門というらしい。
〈最近、仕事がうまくいかないから、前に聞いたことサムスンの本を買ったはいいものの、
本のサブテーマが「5年で一流社員になる」なのに、
俺すでに7年目なんですが・・・とりあえず読むか。〉
本は、入社前の社会人としての心構え、
入社1年目〜5年目までにどのような意識で仕事にあたればいいのかを中心に、
著者のムン氏のサムスン時代の体験談がか書かれている。
例えば、
・入社前
優れた報告書に必要な三つの視点。
ムン氏は、サムスン当時の上司より「報告書は、自分の顔であり、人格だ。」と教えられた。
つまり、報告書は、自分の仕事力、思考のプロセス、未来を通す力、
創意性とクリエイティビティ、対処能力と瞬発力までが、そっくりそのまま現れるという。
優れた報告書を書くにはまず、「過去ー現在ー未来」視点のフレームを用いることだ。
最終的には、未来を見据えた報告書を作成しなければ、
「だから、どうしろと言うんだ?」と思わせるだけだ。
報告書は、役員や社長に考える材料を提供し、
未来の変化を目に見えるようにするためのものだ。
・入社3年目
人間的魅力が備わってこそ真のプロ。
サムスンにおけるプロとは、人間的魅力を備えたソフトな人だ。
真のプロになりたければ、「どうすれば満足させることができるか?」
ということを考えだせなければならない。
そこに「人間的な魅力」をどう結びつけ、相手にアプローチできるかを考えてみるのだ。
という具合だ。
〈なるほど。そういう考え方、モチベーションで仕事をすればいいのか。
そしたら、もっと楽しんで仕事ができそうだ!明日からやってみよう!〉
京左衛門の声が頭の中に響く。
意外に素直なやつなのか?明日からの彼の行動が見ものだな。
ふと、京左衛門の部屋を見渡す。
部屋にはテレビとベット、小さなテーブルに本棚があるだけの
殺風景で、いかにも男子特有のものだ。
部屋にある目覚まし時計が目に入った。
時刻は、9時を指している。
京左衛門は、もう寝ようとしている。意外にも早寝のようだ。
彼の見た目のせいだろうか。彼にはどうもギャップがありすぎる。
ギャップのせいか彼が魅力的に感じてくる。人間とはギャップに弱い生き物らしい。
もしかすると、このギャップで女性をものにしているのかもしれないなと思った。
※ このブックレビューはフィクションが記載されております。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※ 当該ブックレビューは連載ものです。ご興味があれば、以下5月のまえもりをご一読ください。
https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6239/
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タイトル:サムスン式 仕事の流儀
著者:ムン・ヒョンジン
発行:2012年1月10日
発行所:株式会社サンマーク出版
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