2017年2月のまえもり バカが多いのには理由がある@橘玲

2017年2月のまえもり バカが多いのには理由がある @橘 玲 (557x640)

『ライフエクスペリエンス』 第8話

こはぎからのプレゼントをその場で開けてみた。
本のタイトルは「それでもなお、人を愛しなさい」。

「私さ、この本が大好きなんだよね。仕事でもうダメだって、失恋してもうダメだって、
そう思った時に読むととっても勇気付けられるんだよね。
なんかね、金ちゃんとは幼い頃からずっと一緒にいるでしょ?だから、すごく落ち着くんだ。
でも、私のことをわかっていない部分だってある。
もちろん私だって、金ちゃんのことわかってない部分がある。
だからね、金ちゃんに少しでも私のことをわかってもらえないかなと思って、
今回サプライズでこの本を金ちゃんにプレゼントしようって思ったの。ナイスアイディアでしょ!?笑」

胸が熱くなっている自分を抑えるのが必死で、こはぎの言っていることが頭に入ってこなかった。
でも、すごく嬉しかった。こはぎの言葉がすごく。それだけは、覚えている。

「ありがとう。なんかよくわからないけど、クリスマスプレゼントなんて、
かぁちゃんからもらって以来だから嬉しいよ」
こんな言葉しか出なかった。

「あのねー。女の子がプレゼント渡してるんだから普通はもっと喜ぶでしょ!?
ほんっっと、金ちゃんは昔から変わらないなー」

・・・

「ところでさ、「バカが多いのには理由がある」って本知ってる?橘玲(たちばなあきら)って、
週刊プレイボーイを2012年の11月から14年の6月まで書いていた人が著者なんだけどさ。
この人の独特な視点が面白いんだよね!」

数秒の沈黙の間に思いついた会話がこれ。
「ファスト思考しか出来ない人のことを「バカ」って定義付けてるんだけど、
このファスト思考っていうのが、直感的思考のことなんだって。
以前、こんな実験を行った文化人類学者がいた。
アマゾンの奥地の文明社会との接触のなかった人たちに、
怒っている人、笑っている人、悲しんでいる人の写真を見せ、
その感情を聞いてみると文明社会にいる私たちと同じようにその写真の人の感情を言い当てた。
つまり、俺らは相手の感情を直感で判断しているってこと。
直感は文化(=体験)によって作られるのではなく、生得的なものであることがわかった。
一方で、ファスト思考の反対には、スロー思考ってのがある。
スロー思考は、例えば、17×24の計算をしてください、と言われたとする。
もちろん普通はすぐに答えは出てこない。それを計算する必要があるけど、
その時には筋肉が硬直し、血圧や心拍数が上がり、体にも精神的にも負荷をかけてしまう。
その解を考える時に必要な思考が、スロー思考なんだって。
なんでも直感で決めるのは、よくないってそんな話さ!」

・・・

「なんか、金ちゃんらしいね!笑」

「それでさ、人は先天的にスロー思考を避ける習性があるんだって。
さっきの話だと、電卓があるからそんな掛け算をしなくてもいいってなる。
それと同じように、そんなことは私の人生になんの関係もないって問題そのものを否定してしまう。
そのスロー思考がなくなってしまうとどうなるかってね、例えばさっきの掛け算の問題。
17×24の答えは408なんだけど、それをファスト思考でやっちゃうと
「10の桁と20の桁をかけるんだから、200より大きくなることは間違いないな。
だったら300くらいだろう」となってしまう。そうすると答えにたどり着けない。
それが色んなことの悲劇の原因になることはわかるだろ?」

なんの話をしているのだろう。
こはぎから、せっかくプレゼントを貰ったのにそのことはそっちのけで、
この前読んだ本の話をしている。
本当はこんな話をするつもりじゃなかったのに。

「金ちゃんがオススメの本なんだね!私、それ読んでみるよ!
その代わり、金ちゃんも私があげた本読んでみてね!
てか、金ちゃんは今働いている本屋が一番合っているのかもね。なんか羨ましいな。」

「お、おう!今日の夜さっそく読むよ。ありがとな。」
会話がかみ合わない。返す言葉もぎこちない。

こはぎとは、互いの家の前で別れるまで沈黙のままだった。
何を話していいのかわからなかった。
家に帰って、こはぎから貰った本を読んでみた。

「それでもなお、人を愛しなさい」。

すごくいい本だ。
人を愛するってなんだろうか。
人と付き合ったことがない俺にはわかるはずもない?
そんなものなのか?

今日はクリスマス。
外は雪が積もっている。気温は1℃のようだ。
寒がりな俺だけど、なんか今日は気温の割に温かく感じるな。

困惑の中、本を読む。読み続ける・・・。

ふと、親父が経営している(俺が働いている)本屋のことを考えていた。
この本屋を日本一の本屋にしよう。不意にそう思った。
※1 当該ブックレビューは連載ものです。第1?7話を読まれたい方は、
「5月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6239/」から、
毎月1話ずつご一読いただければと思います。
まえもりブックレビュー⇒https://searchi.sunfrt.co.jp/blog/maemori

※2 このブックレビューはフィクションが記載されております。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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タイトル:バカが多いのには理由がある
著者:橘 玲
発行:2017年1月25日
発行所:株式会社集英社
RPまえもり