『ライフエクスペリエンス』 第4話
翌日の昼過ぎ、松本は僕が働く本屋に現れた。
おそらく、昨日この本を紹介した俺にお礼でも言うのだろう。
僕は相変わらず、ドローンのように斜め上からこの状況を眺めている。
松本が本屋で働いている僕に話しかけている。
自分が話しているのを見るなんて、なんとも不思議な気分だ。
「よっ!金ちゃん!昨日の本読んだよ」
「そ、そっか。どうだった?」
「今朝さ、悩んでたテナントとの増額交渉をしてきたんだ。
金ちゃんに勧められた本の通りに話をしたら、うまくいったよ!あの本すごいな!!」
「ほ、ほんとか・・・?そりゃ良かった。。」
どこか未来(?)の自分の様子がおかしい。
「なんだ?元気ないな。疲れてるのか?」
松本も未来の僕の様子がおかしいことに気がついたようだ。
さすが、僕の親友。目は細くても見えているものはみえているらしい。
「まーね。。昨日あんまり寝てないんだ」
「せっかく親友が心からの感謝を伝えようとしてるのにつれねーな!」
「わ、悪いな。今日はほんとに調子が悪くて。。」
「まっ、いいや!とりあえずありがとな!んじゃ!」
お礼を言うやいなや松本はそのまますぐに帰ってしまった。
** ? 反骨 翁長家三代と沖縄のいま ? **
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ?
目覚まし音が鳴り響く。
松本の夢をみた後だからか、どこか清々しく、どこか誇らしげに気持ちよく起きることができた。
なーんだ。やっぱりあの夢はただの夢か。
今回見た夢では、本屋で松本と話していた自分は寝不足で疲れてたって言ってたもんな。
いつの間にか、もしかしたら現実になることなのかもと思っちゃってたな。
いつも通りに出勤し、昼の12時を回り、そろそろお昼休みに入ろうと思った時、
店の入り口から目の細い手の長い奴が現れた。
松本だ。びっくりしすぎた僕は、松本をみた瞬間に自分の体が硬直するのを感じた。
「よっ!金ちゃん!昨日の本読んだよ」
同じだ。夢で見た状況と同じだ。
「そ、そっか。どうだった?」
思わず、ぎこちない返しになってしまう。
「今朝さ、昨日悩んでたテナントとの増額交渉をしてきたんだ。
金ちゃんに勧められた本の通りに話をしたら、うまくいったよ!あの本すごいな!!」
「ほ、ほんとか・・・?そりゃ良かった。。」
「なんだ?元気ないな。疲れてるのか?」
何が何だかわからない。やはりあの夢は、夢じゃなかったってことか?
「まーね。。昨日あんまり寝てないんだ」
なんとか会話になるように返す。
「せっかく親友が心からの感謝を伝えてるのにつれねーな!」
「わ、悪いな。今日はほんとに調子が悪くて。。」
「まっ、いいや!とりあえずありがとな!んじゃ!」
・・・そういうことだったのか。
あの僕の反応は、体調が悪いってことじゃなく、夢がリアルになって戸惑ってしまった反応だったんだ。
どうすればいい?僕はおかしくなってしまったのだろうか。。
そんなことのあった次の日、こはぎと一緒に約束の買い物をするため、原宿に出かけた。
どうやら男友達に誕生日プレゼントを買ってあげるらしい。
「ねぇ、金ちゃん。あんたならどんなプレゼントが欲しい?」
「んー・・・」
正直それどころじゃない。昨日のあの夢のことが頭から離れない。
しかも、いままでの流れからいくとその日にあった人の人生の一部を経験することになる。
つまり、今日でいくとこはぎの人生を経験する可能性があるのだ。。。
「あっ!」
ふと本屋が目に入った。その本屋に導かれるようにいつの間にか中に入っていた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
こはぎが叫ぶが当然僕の耳には入っていない。
『反骨 翁長家三代と沖縄のいま』
吸い寄せられるようにこの本を手に取っていた。
この本は、沖縄の翁長知事の想いや考えについて、
長年かけて密着取材をしたNEWS23クロスのメインニュースキャスターを務めた松原耕二さんが
翁長知事の考えと、沖縄のいまを客観的に書いたものだ。
僕は、まだこの本を読んだことはないが、1ヶ月ほど前に久しぶりに沖縄の友人に会った際、
「いま沖縄で起こっていることを知りたければ、沖縄の人の想いを知りたければ、読んでみたらいいよ」
と言われたことがある。
翁長知事は、2014年に前知事である仲井眞氏を破り、沖縄県の知事に就任している。
当時の知事選は、米軍基地を辺野古に移転させるか県外に移転させるか。
断固として基地反対を訴えるのか、沖縄の経済発展を優先するのかを県民に問いた選挙だった。
以前、翁長知事は米軍基地を辺野古に移設することに賛成をしていたが、
2014年の選挙で県外移設に考えを変えた。
沖縄県民含め、皆がそこに、「?(はてな)」を浮かべたのは事実だ。
僕自身もその一人で、どちらが正しいかどうかではなく、
いつか翁長知事の考えを理解したいと思っており、
この『反骨』をいつの間にか手に取ってしまっていたのだ。
まだ読む前だが、この本はおそらく、賛否両論あるだろう。
立場によって見方が大きく変わるし、同じ立場の人であっても同じ意見とは限らない。
ただ一つ言えることは、この本の著者は、できるかぎり中立の立場で本書を書いているということ。
どちらかの見方になって欲しいという気持ちでは書いておらず、
ただ事実を知って欲しいという思いで書いているということだ。
もしかすると、この本を読めば、沖縄の情勢、日本の情勢、世界の情勢がわかるかもしれない。
「ねぇ!金ちゃん!!ねぇってば!!」
「わ、わりぃ。こはぎと買い物来てるの忘れてたわ(笑)」
「そんなにこの本が欲しいの?そんなにいい本なわけ?」
「いや。ただ興味があっただけ。悪いな。気にしなでくれ!」
「そんなこと言われても気になるわよ・・・」
二人は本屋を後にし、再び原宿の街に飛び出した。
※ 当該ブックレビューは連載ものです。第1-3話を読まれたい方は、
「5月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6239/」
「6月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6436/」
「7月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6873/」
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※ このブックレビューはフィクションが記載されております。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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タイトル:反骨 翁長家三代と沖縄のいま
著者:松原 耕二
発行:2016年7月30日
発行所:三永印刷株式会社
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