2016年9月のまえもり それでもなお、人を愛しなさい @ケント・M・キース

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『ライフエクスペリエンス』 第5話

「ねぇ!こういう靴とかって、男の人はプレゼントで貰ったりすると嬉しかったりするの?」

僕たちはまだ原宿にいた。
「そうだなぁ。それぞれ好みがあるからなんとも言えないな。」
「じゃー、アクセサリーとかは?」
「そうだなぁ。アクセサリーも好みあるからなぁ。なんとも言えないなぁ」

昨日の松本のことが、夢が現実になっていたことが気になってしまい、
腑抜けた言葉が出てしまう。

「もう!こっちから誘っといてなんだけど、
もっと親身になって一緒に考えてくれないかなー。」

これは、こはぎがそろそろ本気でキレ出す手前の反応ではないか!??
ちゃんと返してあげなくては・・・

「わり!よし、ここからが本番!そーだなー、その男友達はなに?こはぎは 狙ってるの?」
「そ、そんなわけじゃないけど、単純に仲がいいからプレゼントしてやろっかなって感じ。
てか、金ちゃんはそんなこと知らなくていいの!」
さすが女性。考えていることがわからん。。。

「ところで金ちゃんなら、なに貰ったら嬉しいの?」
「俺はそうだなぁ。一番はお金だけど、そんなこと言ったらこはぎが怒るのでぇ。
ん?、やっぱ本かな?昔から本好きだし、プレゼントしてくれる人が勧めてくれた本をくれると
ちょっとテンション上がるかもね!」

「金ちゃんに聴いた私が馬鹿だったよ。
あんたは本あれば何でもいい感じするもんねぇ!」
「馬鹿にすんなー!俺だって本以外に欲しいものくらいあるわ!」
「なによ!?言いなさいよ!」
「か、彼女とか・・・?(笑)」
「はい、ありがとうございましたー」
「近頃の子はつれないねぇ。いつからこの子はこうなっちゃったのかねぇ」
昔からのくだらないふざけた会話が飛び出す。
こはぎとは幼馴染みということもあり、気を使わないからいい。

結局こはぎは、原宿でプレゼントを買わず、帰り際、一緒に本屋に寄って、
僕はさっき本屋で見つけてしまった「反骨 翁長 家三代と沖縄のいま(※1)」を買い、
こはぎもなにを買うのか決まらなかったからなのか、
結局、本を買ってプレゼントすることにしたようだ。


 

家に帰ると愛犬のララ丸ピーコックが思いっきり尻尾を振って、
ダラシなく舌を出しながら迎えに来てくれた。なんて愛らしいのだ。

「ララ丸ピーコック。お前だけはずっと俺を愛してくれるよな。
俺がしつけとして怒った後も近くに来てくれて。
俺が高校の頃やってたハンドボールの大会でミスして落ち込んで帰ってきたときも、
俺のこと気にして寄ってきてくれたよな。これが無償の愛ってヤツだなぁ」

いつの間にかララ丸ピーコックに話しかけていた。
客観的に見ると完全に病んでいるヤツだ。

「あんた、なに 独り言言ってるの!さっさとお風呂に入りなさい!」
母だ。ガミガミうるさいな。。と思いながら風呂に入る。
この歳の男がまだ実家暮らしとは笑われちゃうな。そろそろ一人暮らしでもしようかな。

風呂からあがり、そのままベッドで本を読みながらいつの間にか寝てしまっていた。


 

   **  ~ それでもなお、人を愛しなさい ~  **

こはぎが風呂上がりに髪を乾かしていた。
なぜか上機嫌で、なぜか「男はつらいよ」の主題歌の口笛を口ずさんでいる。
どこで覚えたのか。ほんとは何歳だよ!?と思わずツッコミを入れてしまった。

ふと、こはぎが右後ろの上の僕の方を見上げた。
〈うそだろ?俺の姿は見えていないはず。まさか俺の声が聞こえたのか?〉
こはぎはそのまま首を傾げて、また、口笛を吹き出す。

僕はそっと胸をなでおろした。
いままで何回かこんな夢を見てきたけど、振り返られたのは初めてだ。

髪を乾かし終えると、こはぎは本を読みだした。
タイトルは「それでもなお、人を愛しなさい」。
ケント・M・キース。

こはぎが好きな本だ。
こはぎが読んでいる斜め上後ろから一緒になって読んでみる。

・おかしな世界
確かに、この世界は狂っています。
あなたにとってこの世界が意味をなさないというならそれはあなたの言うとおりです。
この世界はまったく意味をなしてません。
大切なのことは、それについて不平を言うことではありません。
希望を捨てることでもありません。世界は意味をなしてはいません。
しかし、あなた自身は意味を成すことが可能なのです。
あなた自身は一人の人間としての意味を発見できるのです。

・人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。
それでもなお、人を愛しなさい。
私たちは同意してもらえないからといって、
人を愛さないことにしようと決めることがあります。
あるいは、この人は不合理な人だ、わからず屋だ、わがままな人だ、
だからこの人は愛する価値がないと決めつけたりします。
それは悲劇です。
なぜかというと、愛は、他人に同意してもらえるかとか、
愛する価値があるかという問題ではないからです。
誰にでも欠点や短所はあります。誰でも怒りたくなったり、
弱さをさらけ出したり、誘惑に負けたりするのです。
最高の愛は、無条件の愛です。
成長して、もっと良い人間になりたいという願望や勇気の源は愛すること、
そして、愛されることなのです。

小学生の時に次のような本を読んだことがあります。
眼の見えない人達が何人か象の周りに立っています。
一人が象の鼻に触って、象はホースみたいなものだと言います。
一人は象の脚の周りに腕を回して。象は樹木のようだといいます。
もう一人は、象の腹に触れて、象は壁のようなものだと言います。
さらにもう一人が尻尾に触って、象はロープのようなものだと言います。

こういう具合に話は進展するのですが、誰もが正しく、誰もが間違っています。
自分が触った部分については正しかったわけですが、
全体を見ていないのでそこで間違えています。
全ての部分を一緒にして、初めて象の本当の姿が見えてくるのです。
この物語から「不合理で物わかりが悪い人」の中には、
象の別な部分に手を置いているだけの人もいるかもしれない。

愛という贈り物を与えてください。受け取ってください。
そうすることによって得られる限りない意味を楽しんでください。
他の人が「扱いにくい」からといって
愛することをやめてしまうのはもったいない話です。

こはぎはこの本を読んで心が温まっているようだ。
〈金ちゃん、この本読んでくれるかな?喜んでくれるかな・・・?〉
こはぎの心の声が聴こえる。

〈なんだ、俺に読んで欲しい本なのか?
そういえば、こはぎはなんの本を買ったのだろう。まぁ、明日聴くとするか。〉

こはぎももう寝るようだ。
どこか心の奥が落ち着かないまま、
今日のライフエクスペリエンスは過ぎ去っていった。


※1 第4話 8月のまえもり
https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p7131/
にて紹介させていただいた本です。
※2 当該ブックレビューは連載中です。
第1?3話を読まれたい方は、
第1話 5月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6239/
第2話 6月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6436/
第3話 7月のまえもり:https://search.sunfrt.co.jp/blog/staff/yby/p6873/
をご一読ください。
※3 このブックレビューはフィクションが記載されております。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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タイトル:それでもなお、人を愛しなさい
著  者:ケント・M・キース
発  行:2016年9月15日
発行所:株式会社早川書房

RP まえもり