居抜きオフィスとは? スタートアップ企業におすすめしたいメリットや移転時の注意点
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昨今、スタートアップを中心に人気が高まっているのが「居抜きオフィス」です。「居抜き」というと、店舗利用をイメージする方が多いかもしれませんが、法人オフィスの選択肢の一つとしても注目を浴びています。
今回の記事では、そんな注目を集める居抜きオフィスとはどのようなものなのか、そのメリット・デメリットを分かりやすく解説します。スタートアップ企業における居抜きオフィスを選ぶ際の注意点や、居抜きオフィスを選ぶ以外でオフィス移転コストを抑える方法についても解説していますので、コストパフォーマンスの高いオフィス移転について情報収集をされている経営者の方、オフィス移転担当者の方はぜひ参考にしてください。
本記事の後半でも少し触れていますが、居抜きオフィスと比較されることも多い「セットアップオフィス」については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてチェックしてみてください。
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スタートアップにおすすめの居抜きオフィスとは
「居抜きオフィス」とは、前の入居者が使用していた内装やオフィス家具、設備をそのまま引き継いで利用できるオフィスのことです。通常、オフィス移転には高額な内装工事費や什器の購入費がかかりますが、居抜きオフィスであればこれらの内装工事が既に施されおり、什器も引継ぎで利用できるケースが多いため、初期費用を大幅に削減できます。
こうしたコストメリットから、特に事業の成長に資金を集中させたいスタートアップ企業にとって、近年非常に人気の高いオフィスの選択肢となっています。
居抜きオフィスを選ぶ企業が増えている理由
居抜きオフィスが注目される理由はさまざまですが、近年では「工事費の高騰」も大きな理由のひとつでしょう。国交省が発表しているレポート(参考資料)によれば、2021年以降建設工事費は高騰を続けており、この高騰の背景には、少子高齢化に伴う職人不足や、昨今の円安による輸入資材の価格上昇、さらに世界的なインフレによるエネルギーコストの上昇など、複数の要因が複雑に絡み合っています。特に、オフィス内装に欠かせない建材や家具などの価格が軒並み上昇しており、企業が新しいオフィスを構える際の大きな負担となっています。
こういった要因もあり、特に初期費用を抑えたいスタートアップ企業などを中心に、内装工事費を軽減できる居抜きオフィスが「合理的で魅力的な選択肢」として関心が高まっていると考えられます。
参考資料:最近の建設業を巡る状況について【報告】
居抜きオフィスのメリット
前段でも少し触れましたが、まずは、居抜きオフィス利用のメリットについて、詳しく解説します。
大幅なコスト削減が可能
居抜きオフィスの最大のメリットは、移転にかかる初期費用を大幅に削減できる点です。通常のオフィス移転では、内装工事費やデザイン設計費、オフィス家具の購入費など、多岐にわたる費用が発生します。特に内装工事費は、小規模なオフィスでも坪単価20〜30万円程度、デザインにこだわれば坪単価40万円以上かかることも珍しくありません。
その点、居抜きオフィスであれば、前テナントの内装や家具、設備をそのまま活用できるため、これらの費用を大幅にカットできます。浮いたコストを事業開発や人材採用など、企業の成長に不可欠なコア業務に投資できるのは、特に資金調達が重要なスタートアップ企業にとって大きな魅力と言えるでしょう。
短期間での移転が可能
事業拡大や人員増加に迅速に対応できる点も、居抜きオフィスの大きなメリットです。一般的なオフィス移転では、物件探しから始まり、内装のデザイン設計、工事業者の選定、そして実際の工事と、入居までに3ヶ月から半年、場合によってはそれ以上の期間を要することもあります。
一方、居抜きオフィスはすでに前の入居企業が構築した執務環境が整っているため、契約後早いタイミングで業務を開始することが可能です。移転に伴うダウンタイムを最小限に抑え、ビジネスの機会損失を防ぐことができるため、変化の激しい市場で戦うスタートアップやベンチャー企業にとって、このメリットは強力なアドバンテージとなります。
居抜きオフィスのデメリット
ここまで居抜きオフィスのメリットについて触れてきましたが、自社の状況に沿った適切な判断をできるようにするため、デメリットの部分についてもしっかり確認しておきましょう。
追加の内装工事や設備の買い替えが発生する場合もある
先のパートでご紹介した通り、居抜きオフィスは「コスト削減効果」が大きなメリットのひとつですが、引き継いだ内装や設備の状態・状況によっては、予期せぬ追加費用が発生する可能性があります。
例えば、オフィス家具や什器が想定以上に劣化・故障していた場合、その処分費用や新しいものへの買い替え費用が必要になることがあります。また、引き継いだ設備の所有権がリース会社にあるような場合、「造作譲渡契約(店舗やオフィスの内装・設備などを、次にその物件を借りる人に譲り渡す契約のこと)」が結べず、リース契約を引き継ぐか家具を返却する必要があり、事前に確認を怠っていると後々トラブルに発展することもあります。
こういった事態を避けるためにも、入居前には必ず設備や家具の状態、所有権の所在を確認しておきましょう。
自社の働き方やブランドイメージに合わない可能性がある
居抜きオフィスでは、前テナントが構築したレイアウトやデザインをそのまま引き継ぐ形となるため、当然ながら自社の業務フローや企業文化に合わない可能性もあります。動線が悪く業務効率が低下したり、他にもデザインが自社のブランドイメージと異なったりすると、従業員のモチベーションや採用活動まで影響を及ぼしかねません。
このような場合、内装を一部変更するにも追加の工事費用がかかるため、「コストを抑えたいが、自社の理想も実現したい」という場合は、デザイン性と機能性を両立した「セットアップオフィス」等の物件も選択肢に入れると良いでしょう。
退去時に原状回復工事が必要になるケースがある
居抜きオフィスとして入居した場合、一般的には退去時の原状回復義務も引き継ぐことになります。もし、次の入居者が居抜きでの引き継ぎを希望しなかった場合、自社でビル標準に戻すための原状回復工事を行わなければなりません。
原状回復工事の費用相場は、オフィスの規模やビルのグレードによって大きく異なりますが、小・中規模オフィス(100坪以内)では坪あたり5万円〜8万円前後、大規模オフィス(100坪以上)になると坪あたり7万円〜10万円前後がかかります。さらに、大手デベロッパーが所有するハイグレードなビルの場合は、坪単価15万円〜20万円、場合によっては30万円以上になることもあります。
後から想定外の費用として慌てることの無いよう、入居前には原状回復工事の詳細な範囲を確認しておくことが大切です。
居抜きオフィスは物件の選択肢が少ない
そもそも居抜きオフィスは、通常の賃貸オフィスに比べて市場に出回る物件数が限られています。そのため、希望のエリアや広さ、デザインに合致する物件を見つけること自体が難しい場合があります。
特にデザイン性の高い人気物件は、情報が出るとすぐに契約が決まってしまうことも多いため、常に最新の物件情報を収集し、物件が見つかった際、迅速に契約を進められる準備をしておくことが求められます。
スタートアップ企業における「居抜きオフィス」選びの際の注意点
メリット・デメリットを理解した上で、ここからはスタートアップ企業が居抜きオフィスを選ぶ際に特に注意すべき4つのポイントを解説します。
内装やレイアウトが自社に合っている物件を選ぶ

成長中のスタートアップにとって、オフィスは事業を推進する基盤であり、自社のカルチャーを映し出す「顔」でもあります。そのため、内装デザインやレイアウトが自社のブランドイメージや働き方に合っているかは、非常に重要な選定基準です。
デザイン性の高いオフィスは、採用活動において求職者への魅力的なアピールになりますし、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。また、働き方に合ったレイアウトのオフィスは、組織の生産性を高め、事業成長にも貢献します。
自社のコンセプトに合わない、あるいは業務フローに適さないレイアウトのオフィスを選んでしまうと、後から追加の工事が必要になり、かえってコストがかさむ可能性もあるため注意が必要です。
初期費用や退去費用などの条件を確認する
居抜きオフィスは初期費用を抑えられるのが魅力ですが、トータルでかかるコストを事前に把握しておくことが不可欠です。内装工事費がかからないからといって、他にもさまざまな項目の移転に関する費用が発生することを忘れてはいけません。
例えば、敷金・礼金、保証料といった基本的な初期費用に加え、前述の通り、退去時には原状回復工事の義務が発生する可能性があります。入居前に、どこまでが譲渡範囲で、どこからが修繕・交換が必要なのか、そして退去時の条件はどうなっているのか、契約内容を隅々まで確認し、移転全体でかかる費用を正確に試算しておきましょう。
引き渡し時の状態や残置物を確認する
内覧時には、引き継がれるオフィス家具や什器、設備の状態を一つひとつ細かくチェックしましょう。「使えるだろう」という思い込みは禁物です。見た目は綺麗でも、実際には劣化が進んでいたり、故障していたりするケースも少なくありません。
もし使えないものが多い場合、その処分費用や新たな購入費用が発生し、想定外の出費につながります。また、設備の所有権がリース会社にある場合、リース契約の継続や返却が必要になることもあります。トラブルを避けるためにも、残置物の状態と所有権の所在は、契約前に必ず確認すべき重要事項です。
オフィス移転のプロに相談する
ここまで解説してきた通り、居抜きオフィス選びでは、契約前に確認すべき点が多岐にわたります。加えて、居抜き物件は市場に出回る数が限られており、自社だけで理想の物件を探し出すのは時間と労力もかかります。
そこでおすすめしたいのが、オフィス移転のプロに相談することです。専門家であれば、豊富な情報網の中から自社の希望に合った物件を提案してくれるだけでなく、契約内容のチェックやコスト計算など、専門的な視点から多角的にサポートしてくれます。
移転前の課題を整理する中で、「居抜きオフィス」だけでなく、デザイン性の高い「セットアップオフィス」や、自社で自由に内装を施せる「通常オフィス」など、他の選択肢が最適だと判明する場合もあります。最適なオフィス移転を実現するために、まずは一度プロに相談してみると良いでしょう。
居抜きオフィスを選ぶ以外でオフィス移転のコストを抑える方法
居抜きオフィスは移転コストを抑える有効な手段のひとつですが、居抜きオフィスを選ぶ以外でも移転コストを抑える方法はあります。最後に、コストパフォーマンスの高いオフィス移転を実現するための、2つのおすすめの方法をご紹介します。
セットアップオフィスなどの内装付き物件を選ぶ
冒頭でもよく比較されるオフィスタイプとして触れましたが、居抜きオフィスと並んで近年スタートアップ人気が高まっているのが「セットアップオフィス」です。
セットアップオフィスとは、貸主側があらかじめ内装工事を行い、家具や什器まで設置した状態で提供されるオフィスのことで、居抜きオフィスと同様、内装工事に関するコストと期間を大幅に削減できるという点が大きなメリットです。
サンフロンティア不動産ではこのセットアップオフィス物件を多数取り扱いしておりますが、ここではその一例をご紹介します。まずは実際の物件情報をもとに、セットアップオフィスがどのようなものなのかチェックしてみてください。
居抜きオフィスとセットアップオフィスとの違い
居抜きオフィスとセットアップオフィスはメリットの面で共通する部分もありますが、厳密にはいくつかの違いがあり、自社の希望や条件に合わせて選び分ける必要があります。以下は、2つのオフィスタイプの違いを主要項目で比較した比較表です。

この通り、居抜きオフィスはとにかく移転費用を抑えたい企業向け、一方でセットアップオフィスは、デザイン性が高く、採用ブランディングや従業員満足度の向上も重視する企業向けの選択肢と言えるでしょう。
両者の違いについてさらに詳しく知りたい方は、人気コラム『居抜きオフィスvsセットアップオフィス!スタートアップに人気の理由と選ぶべきポイントとは』もぜひ参考にしてください。
仲介手数料や敷金不要の物件を選ぶ
オフィス移転のコストは、内装工事費だけではありません。物件契約時にかかる「仲介手数料」や「敷金」も、初期費用の中で大きな割合を占めます。仲介手数料は賃料の1ヶ月分、敷金は賃料の6ヶ月〜12ヶ月分が相場となっており、これらを合わせると数百万円単位の出費になることもあります。内装工事費を抑えられたとしても、これらの初期費用項目が、総額でそれなりの負担になることを想定しておく必要があるでしょう。
ただし、物件によってはこれらの費用が不要なケースもあります。例えば、貸主と直接契約することで仲介手数料が不要になったり、「敷金0」を掲げる物件を選んだりすることで、初期費用を大幅に圧縮することが可能です。物件探しの際には、こうした契約条件にも注目することで、より賢くコストを抑えたオフィス移転が実現できます。
サンフロンティア不動産の運営する『Officci』では、こういった「敷金0」の物件や「仲介手数料無料」の自社貸主物件も多数取り扱っておりますので、ぜひ一度物件情報をチェックしてみてください。
居抜きオフィスに関するよくある質問
最後に、居抜きオフィスを検討する上でよく挙がる質問について、Q&A形式で解説します。
居抜きオフィスで原状回復工事が不要になるのはどのようなケースですか?
通常の賃貸借契約では、退去時に借主が原状回復工事を行い、入居前の状態に戻す義務を負います。しかし、以下の条件が揃えば、この義務が免除または大幅に軽減される可能性があります。
●後継テナントが決まっている場合: 自社の退去後に、その内装や設備をそのまま引き継いでくれる次の入居者が見つかり、貸主(オーナー)の承諾が得られれば、原状回復工事は不要となります。
●貸主が造作を承継することに同意した場合: 内装のデザイン性が高く、貸主が次のテナント募集に活かせると判断した場合などに、貸主が造作の残置を認めてくれるケースです。
●入居先のビルの建て替えが決まっている場合: 既に建て替えが決まっているビルの場合、契約満了とともに原状回復不要で退去できるケースもあります。
参考資料:賃貸借契約に関するルールの見直し(PDF)|法務省
これらの条件をうまく活用することで、高額になりがちな原状回復費用を大幅に削減できます。
※いずれのケースも、契約書・覚書の条項や個別の交渉内容によって、原状回復義務の有無や範囲が異なる場合があります。
造作譲渡契約について詳しく教えてください
「造作譲渡契約」とは、居抜き物件に残された内装・設備・家具などの所有権を、退去するテナント(旧借主)から新しく入居するテナント(新借主)へ譲渡するための契約です。
この契約は旧借主と新借主の間で直接結ばれ、貸主は直接の契約当事者にはなりません。しかし、契約を進めるには必ず貸主の承諾が必要です。無断で進めると契約違反になるため注意しましょう。
契約時には、譲渡する物品のリスト、譲渡価格、引き渡し条件などを明確にします。特に、設備の不具合に関する責任の所在(瑕疵担保責任)や、リース品の有無、将来の原状回復義務を誰が負うのかといった点は、後のトラブルを防ぐためにも契約書で明確に定めておくことが重要です。
スタートアップに最適な居抜きオフィスの広さは?
オフィスの適切な広さは、従業員一人あたり2〜3坪(約6.6〜9.9㎡)が一般的な目安とされています。これを基にスタートアップの成長フェーズごとのオフィスの広さを試算すると、およそ以下のようになります。
【フェーズ別の最適なオフィスの広さ】
●創業初期(〜5名): 約10〜15坪
●成長フェーズ(10〜20名): 約20〜30坪
●拡大期(20〜30名): 40〜60坪
ただし、これはあくまで目安の広さです。例えばエンジニア中心で個人が集中できるスペースが多く必要な場合や、逆にフリーアドレス制を導入している場合など、企業の働き方によって必要なスペースや面積は変わります。
スタートアップの場合、事業の成長速度が速く、数年で入居したオフィスを移転する可能性も高いです。最初から完璧なオフィスを目指すよりは、将来の増員をある程度見越した上で、コストを抑えられる居抜きオフィスを機動的に活用し、会社の成長に合わせて段階的に拡張していく戦略が有効でしょう。
オフィスの最適な広さの考え方について、より詳しく知りたい方は『オフィスの広さや坪数はどのくらい必要?人数あたりの広さの目安をご紹介』の記事も参考にしてください。
まとめ|コストパフォーマンス重視のオフィス移転ならサンフロンティア不動産にご相談ください
今回の記事では、スタートアップ企業におすすめの「居抜きオフィス」について、そのメリット・デメリットから、物件選びの際の注意点、そして居抜き以外でコストを抑える方法まで、詳しく解説しました。
オフィス移転は大きな投資ですが、居抜きオフィスやセットアップオフィスといった選択肢を賢く活用することで、コストを抑えつつ、自社の成長を加速させる最適な環境を構築することが可能です。サンフロンティア不動産が運営する『Officci』では、デザイン性の高いセットアップオフィスを中心に、居抜きオフィスをお探しの企業様にも最適な、コストパフォーマンス抜群のオフィス物件を多数取り揃えております。
スタートアップのオフィス戦略に関するお悩みやご相談がございましたら、ぜひお気軽に私たちにご相談ください。
記事監修者
菅野 勇人
宅地建物取引士
セットアップオフィスから一般的なオフィスまで、多種多様なオフィスビルの魅力や特徴を熟知したオフィス物件マニア。
スタートアップ企業の移転支援経験が多く、そこで得た知見を活かし、お客様の理想のオフィス探しを全力でサポートいたします。